大判例

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福岡高等裁判所 昭和30年(う)1093号・昭30年(う)1095号 判決

検察官の控訴趣意について。

爆発物取締罰則にいわゆる爆発物とは、理化学上爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において薬品その他の資材が結合せる物体であつて、その爆発作用そのものによつて公共の安全をみだし又は人の身体財産を害するに足る破壊力を有するものを指称すると解するのを相当とし、右理化学上の爆発現象というのは通常ある物体系の体積が物理的に急激迅速に増大する現象(物理的爆発)及び物質の分解又は化合が極めて急速に進行し、かかる化学変化に伴つて一時に多量の反応熱及び多数のガス分子を発生して体積の急速な増大を来す現象(化学的爆発)を指すのである。(最高裁判所昭和三一年六月二七日大法廷判決。最高裁判所判例集第一〇巻第六号九二一頁。)従つて右の程度の爆発の威力乃至は爆発性能の高度であることは必要であるが、特に原判決がいうように爆発性能が極めて高度であるか否か、又人の身体財産に与える被害が甚大であるか否かによつて爆発物かどうかを決すべきではない。しかも右にいう「人」を「不特定多数人」と解すべき特別の条文上の根拠にも乏しく、ここにいう「人」は一般に特定若しくは不特定の単数人であつてもよいし、更に害される財産に関する限りでは法人であつても差支えないと解すべきである。以上のとおりであるから検察官論旨にある原判決が示した爆発物取締罰則にいう爆発物の定義に関する説示に対するその余の所論について判断するまでもなく、原判決が爆発物取締罰則にいう爆発物の意義について示した解釈は誤つているといわざるをえない。

そこで叙上の見解により本件ラムネ弾が右にいう爆発物に該当するものであるか否かを検討するに、

原裁判所の押収にかかるラムネ瓶一本(証第四号)、ラムネ瓶破片約二本分(証第九号)、ラムネ瓶破片五個(証第一二号)、ラムネ瓶破片若干(証第一三号)、ラムネ瓶破片五三個(証第一四号)、原審鑑定人谷巌作成の昭和二八年五月二四日附鑑定書(記録第四八冊)の記載によれば、右押収にかかる証第四号のラムネ瓶中にはカーバイト三四瓦が詰められており、又証第九、一二乃至一四号の各ラムネ瓶破片(右鑑定書に証第六、八、一一、一二号とあるのは原審第一四回公判調書(記録第四四冊)中鑑定人谷巌に対する鑑定人尋問関係部分の記載の誤記をそのまま受け継いだもので順次証第一三、九、一二、一四号に該当するものと解される。)の内側には水酸化カルシウム即ち消石灰が附着しており、これら破片はラムネ瓶内にカーバイトを入れ水を加えて投擲破裂されたものと認められるから、原判示第二の犯行において使用されたラムネ弾は、各ラムネ瓶に三四瓦位宛のカーバイトを詰め、これに水を注入するという構造を有していたものであることを推認することができる。

ところで、前記谷巌作成の鑑定書、山本祐徳作成の鑑定書謄本(昭和二七年九月一三日附)並びに鑑定人塚元久雄の鑑定書謄本の各記載を総合すると、この種ラムネ弾に水を数十瓦注入しこれを傾斜或いは倒立させて直ちに投ずるときは、カーバイトと水の反応により急激多量にアセチレンガスを発生し、かつ、その反応熱等により右ガスの膨張を伴い一方前記傾斜等の際瓶内のラムネ玉が瓶の口を密閉するので瓶内で発生を続けるガスの圧力が急速に高まり、遂に容器である瓶の外壁を破つて急激にその体積を増大し、これがため瓶の破片を飛散させる現象を生じ、右経過におけるカーバイトと水の反応によるアセチレンガスの発生は化学反応であつてもそれは化学上の爆発というものではないが、右の様に発生したアセチレンガスが密閉された瓶内で急速に充満増加するため高圧を生じそれが瓶の耐圧限界を超え前記の如くこれを破裂させるに至る現象は物理的爆発ということができ、しかも瓶内のカーバイトに注水するときは容易にガスを発生し前記爆発現象を示すものであるから、それは爆発現象を惹起しうるような不安定な平衡状態において薬品その他の資材が結合されている物体に該当するということができる。

そこでその破壊力の程度について検討するに、原裁判所の証人河合ことに対する証人尋問調書、原裁判所の昭和二七年一〇月二七日の検証調書並びに検察官の金応★方における検証調書の各記載によれば、本件の金応★方に投入されたラムネ弾一個は同家二階六畳間の押入の襖をつき破り同押入内で爆発し、その破片は又襖を破つて押入外に飛出し隣室まで飛散していることが明らかであり、前記各証拠物、鑑定人谷巌作成の鑑定書、鑑定人塚元久雄作成の鑑定書謄本、当審において取り調べた福岡高等裁判所第一刑事部の昭和二九年一二月六日の検証調書、鑑定人塚元久雄同谷巌連名作成の昭和三〇年一月一〇日附鑑定書を総合すると、本件ラムネ弾は水数十瓦を注入し傾斜又は倒立させた後五秒乃至十数秒で爆発し、多数の場合によつては百数十個のガラス破片を最大距離五〇米位最高度五米乃至七米位に及ぶ四囲に飛散させ,その身体財産に対する破壊力は各場合により爆心より一米以内であれば露出の皮膚にかなりの被害を与え眼は失明し或いは頸動脈を切断すれば生命の危険も考えられ爆心附近では木箱に最大三糎最少七粍の損傷を与え円形アルマイト製漏斗を略楕円形に変形させその外側面には数ケ所の凹みを生じ一部では貫通し、爆心より一米附近においては厚さ三分の杉板は貫通できないが距離三米附近においては厚さ二粍のボール紙を破り爆心より半経五米内外においては人体の危険が予想され又それ以上の距離においても必ずしも安全とはいえないことが認められる。

しかして以上の事実に徴すれば本件ラムネ弾はその爆発作用そのものによつて公共の安全をみだし又は人の身体財産を害するに足る破壊力を有するものと認められるので結局右は爆発物取締罰則にいわゆる爆発物に該当するものということができる。そこで原判決がこれを右爆発物に該当しないものとして、被告人金基泰がこれを使用したとの訴因を罪とならないものと判断したのは法令の解釈の適用を誤つたものというべく、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中被告人金基泰に関する部分は刑事訴訟法第三八〇条第三九七条第一項に則り破棄を免れない。論旨は理由がある。

(裁判長裁判官 藤井亮 裁判官 中村荘十郎 裁判官 生田謙二)

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